「テストで良い点を取れば、いい大学に行けて、いい仕事につける」「頑張れば誰でも成功できる」——とてもフェアなルールにきこえます。
でも、この「実力さえあればいい」という考え方に、「ちょっと待った!」という声もあがっています
そもそもメリトクラシーとは?
meritocracy = merit(能力・功績)+ cracy(支配・統治)
メリトクラシーとは「個人の能力や努力に基づいて、社会的地位が決まる仕組み」のこと。昔は生まれた家柄や身分で人生が決まっていた。それに比べて「試験の点数や仕事の成果という客観的な数字で評価される今の仕組み」は、ずっと自由で公平な理想として広がってきました
一見フェアに見える。
けど、ここに大きな落とし穴がある。
お茶の水女子大学名誉教授、耳塚先生が指摘する「落とし穴」
教育社会学者の耳塚寛明先生(青山学院大学コミュニティ人間科学部学部特任教授・お茶の水女子大学名誉教授)は、全国学力調査の大規模データをもとに、この「公平に見える仕組み」に潜む2つの問題を明らかにしています
スタートラインの格差(見えない不平等)
「個人の実力」だと思っているものは、育ってきた環境に大きく左右されている。
→ 塾に通える家の子 vs そうでない子
→ 大学進学が当たり前の大人がいる環境 vs そうでない環境
耳塚先生の調査では、子どもの学習時間よりも「家庭の社会経済的背景」のほうが学力への影響が大きいことが数字で示されている。「環境という追い風」の有無が結果を大きく変えているということで、耳塚先生はこれを「ペアレントクラシー」とも呼ぶ——親の所得と期待で子の未来が決まるメリトクラシーのことだ。
耳塚寛明(2014)『教育格差の社会学』
「学力格差はもはや教育問題ではなく社会問題だ。格差は家族・地域・社会構造に由来するため、所得再分配や雇用など根本的な原因に働きかける構造的対応が決定的に重要である。」
「正論」からこそ厳しい(自己責任の呪い)
昔の社会はコネや家柄が強かった分、「運が悪かった」と言い訳ができた。でもメリトクラシーは「公平で正しい」感じがするからこそ、負けたときに言い訳がしにくい。
→ 環境のせいにしづらい
→ 「自分の能力や努力が足りないせいだ」と思い込みやすい
その結果、しんどさが全部個人に集中するという問題がある。
格差が「自分のせい」として正当化されてしまう構造です
ここで、社会学者の上野千鶴子(東京大学名誉教授)が東大の入学式で放った言葉が刺さります
上野千鶴子・東大入学式祝辞(2019)
「がんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったことを忘れないようにしてください」
あなたが今ここにいるのは、あなただけの力じゃない——この言葉は耳塚先生のデータとも重なるように感じます。成功も失敗も、100%自分のせいではない。これを知っているだけで、不要な自己否定からちょっと自由になれそうです
AIの登場でメリトクラシーが加速する
今、AIの進化によって、このメリトクラシーがさらに強化されると言われています
ちょっと具体的に考えてみましょう
「できる人」がさらに強くなる(能力ブースト)
AIを使える人は作業スピードも質も圧倒的に高まる。能力のブーストが半端ないため、AIを使える人と使えない人の差が今まで以上に開きます、というか生成AIの講義を売る会社の煽り見たいですが、本当にもう、この格差は、想像以上に開いていると思います
新しい「見えない不平等」の誕生
AIリテラシーや情報へのアクセス速度が新しい評価基準になります。というか既になっている?
先日、NewsPicksのアメリカ支局の番組内で、AI使いこなしてるから年収4,500万で雇用された人の話をみましたが、つまり「そういうこと」
ツール使用の格差(サブスク代など)も含め、耳塚先生のいう「見えない不平等」がAI版にアップデートされた形で起こりはじめています
ハイパーメリトクラシーの到来
勉強だけでなく「コミュ力」「創造力」など、性格や人間性まですべてが評価対象になる超・能力主義(ハイパーメリトクラシー)の時代。24時間あらゆる行動が「能力」としてランク付けされて公開も可能、よりシビアな競争社会です
これからの社会を生き抜く「2つの視点」
社会の構造を理解する
「自分はダメだ」と落ち込む前に、一歩引いて「社会には構造的な不平等がある」と知ることが大切
耳塚寛明(青山学院大学コミュニティ人間科学部学部特任教授・お茶の水女子大学名誉教授)
データが示す「環境の差」。学力も進路も、本人の努力より家庭の背景に強く影響される。成功も失敗も、100%自分のせいではないです
耳塚先生のデータを理解することで、成功も失敗も100%自分のせいではないとわかる。これが不要な自己否定から心を守る第一歩となりそうです
そのうえで、主体的に戦略を立てる(AI時代の人生戦略)
構造を知ったうえで「じゃあ自分はどうする?」という問いをもつこと。
戦略① AIを格差を埋める道具にする塾に行けなくても、AIを家庭教師にすれば格差を縮められる。環境の制約を部分的に乗り越える手段だ。
戦略② 「問いを立てる力」を磨く答えはAIが出してくれる。「何を解決すべきか?」という独自の問いを持つことが、最強の差別化になる
戦略③ 助け合える仲間をもつ孤立しがちな競争社会だからこそ、弱さを認め合えるつながりが実は一番の「生き残り戦略」かもしれないです(❝弱い紐帯❞も大事かも)
豆知識:メリトクラシーは「皮肉」から生まれた?
📖 『The Rise of the Meritocracy』(メリトクラシーの台頭)マイケル・ヤング著、1958年
「メリトクラシー」という言葉、イギリスの社会学者マイケル・ヤングがこの風刺小説の中で作った造語だ。当初は「能力だけで人を判断する社会なんて息苦しくて最悪だよね」という警告(皮肉)として作られた。それがいつの間にか「実力主義こそ正義だ」という意味で使われるようになったのは、なんとも皮肉な話ですよね(日本語訳は『メリトクラシーの法則』(伊藤慎一訳)
まとめ
✓ メリトクラシーは「実力で評価される社会」だが、スタートラインが平等ではない(耳塚)
✓ AIによって格差は見えにくくなりつつ広がり、評価はよりシビアになる
✓ 大事なのは「自分を責めすぎないこと」とメリトクラシーとAIという時代背景を知ったうえで「AIを格差を埋める道具にする」「問いを立てる力」を磨く、 助け合える仲間をもつこと」、孤立しがちな競争社会だからこそ、弱さを認め工夫し続けて楽しく生きていこう
参考文献
- 耳塚寛明(2014)「学力格差の社会学」耳塚寛明編『教育格差の社会学』有斐閣アルマ
- 文部科学省委託研究「全国学力・学習状況調査の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究」国立大学法人お茶の水女子大学(代表:耳塚寛明、2013・2017年度)
- 上野千鶴子(2019)「平成31年度東京大学学部入学式 祝辞」東京大学
- Michael Young(1958)The Rise of the Meritocracy, Thames and Hudson
